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金沢家庭裁判所 昭和60年(家)18号 審判 1985年8月20日

申立人

松山花子

代理人

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

(申立の趣旨)

(1)  申立人の戸籍にある、父「亡内川平一」とあるのを「亡松山三郎」と母「さと」とあるのを「とし」と名の「花子」とあるのを「月子」と出生「昭和二年○月一四日」とあるのを「大正一〇年○月一一日」と訂正する。

(2)  申立人の戸籍の身分事項にある「昭和二年○月一四日河北郡甲村○○○番地で出生、父内川平一届出同月二四日受附入籍、昭和一九年○月二〇日松山義男と婚姻届出河北郡甲町○○○番地内川音二戸籍より同日入籍、昭和二三年○月一三日夫とともに入籍」とあるのを「大正一〇年○月一一日河北郡甲村○○番地で出生父松山三郎母とし届出大正一〇年○月一九日受附入籍昭和一九年○月二〇日松山義男と婚姻届出河北郡甲町○○番地松山三郎戸籍より同日入籍」と訂正する旨の審判を求める。

(申立の理由)

1  申立人の戸籍上の名は花子となつているが実際は月子である。

申立人は父松山又三郎母松山としの間に大正一〇年○月一一日出生昭和一九年○月二〇日松山義男と婚姻しその届出をなした。

2  しかるに松山義男の戸籍中の妻の欄には松山月子に関してではなく別人の内川花子に関しての記載がなされている。

3  このようなことになつているのは申立人と夫松山義男とは姪と叔父の関係にあつて法律上婚姻が許されない立場にあつたのと申立人の経済的理由から他家に嫁ぐことができなかつたので他人である内川花子の氏名を用いて婚姻届をなしたためであり、内川月子にも同様の事情が存在しその事情は当事者や関係者の十分承知しているところである。

4  申立人の夫の松山義男も内川月子の夫も既に死亡し、戸籍上偽りの記載をしておく必要がなくなつたので、戸籍上の記載を真実に合致させるため申立趣旨のごとき戸籍訂正の許可を得るため本申立に及んだ。

(当裁判所の判断)

本件記録特に申立人及び参考人内川月子に対する当庁調査官の調査結果によると申立人主張の事実が一応認められるようであるが本件は申立人と亡松山義男との婚姻、件外内川月子と内川音二の婚姻がからみ片方のみを戸籍訂正で処理したのでは片手落となる等影響するところが大きいこと、戸籍法一一三条は訂正すべき戸籍上の事項が軽微で親族相続法上の身分関係に重要な影響を及ぼさない場合に戸籍訂正として許すための規定で本件のように人間の同一性に異動を来すような影響するところの大きい場合を予想していないことに鑑み本件は家庭裁判所の審判に親しまず厳格な証拠調べを行つて後に下される婚姻無効等の判決によつて身分関係を抜本的に確認した後戸籍訂正を行うべきものと解されるので、本件申立を容れることはできない。

よつて本件申立を却下し申立費用は申立人の負担として主文のとおり審判する。

(家事審判官菊地 博)

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